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カテゴリー:ニュース

過去にも人類を脅かした感染症!アジアを中心に流行したSARS(サーズ)はカナダでどのような存在だった?

公開:2020/04/25 著者:坂元 ちひろ 884 Views

こんにちは、カナダ在住のちひろです。

今でこそ、世界中の多くの人々が新型コロナウイルスの脅威を認知しています。私が新型コロナウイルスに関する話題を初めて耳にしたのは、2020年2月頃と今から2ヶ月ほど前でした。それは職場で同僚と話をしていた時のことです。

 

「そう言えば、中国でコウモリを食べて病気になった人がいるらしい。」
「中国の人って、ネズミとか犬とか本当に何でも食べるよね。」
「昔から、『中国では、机や椅子以外の4本足の物は何でも口にする』って言うしね…。」

 

そんな風に、なんの取り留めもない会話から全てが始まりました。当時は、それがパンデミックにまで発展し自分達の生活をも巻き込んでいくとは、誰も予想していませんでした。

しかし、その日を境に、私たちの会話内容は徐々に変化していきました。

 

「ねぇ、ニュース見た?新型コロナウイルスだっけ?」
「そうそう!カナダでも1人目の感染者が出たらしいよ。」
「まぁとりあえず、マスクだけでも買っておこうかな。」

 

それでもまだコロナウイルスが他人事だった私たちに、職場のマネージャーは言いました。

 

「過去にカナダでSARS(サーズ)が流行した時は大変だったよ。」
「マスクは絶対に買っておいた方がいいよ。手洗いうがいもしっかりしてね!」

 

その言葉は、私が「感染症の歴史」に触れるきっかけとなりました。それまでは考えたこともありませんでしたが、人類は感染症との戦いだったのです。

そこで今回は、過去に世界で流行した感染症の一例として、「SARS」を取り上げるべく筆を取りました。SARSはアジアを中心に拡大しましたが、アジア圏外ではカナダ(トロント)での症例が突出して多かったと報告されています。

本日の記事は数字や根拠を明確にするため、「Renewal of Public Health in Canada/A report of the National Advisory Committee on SARS and Public Health October 2003」と「Situation Updates-SARS/World Health Organization」(本コラム末尾にURL記載)も参考にしながら紹介します。

前回流行した感染症SARS(サーズ)とは?

SARSはSevere Acute Respiratory Syndrome(重症急性呼吸器症候群)の頭文字を統合した名称で、流行時期は2002~2003年です。主な症状は38度以上の発熱、咳、筋肉痛、呼吸困難で、重症化により肺炎に発展した例も報告されています。

現在流行中の新型コロナウイルス同様に、接触・飛沫感染で人から人へと広がる「SARSコロナウイルス」が病原体です。最初のSARS症例が発生したのは中国とされており、広東省や香港などのアジアを中心として感染拡大しました。

WHO(世界保健機関)によると、症例数は32の国と地域で8,096件、死者は774名です。カナダ国内では251件の症例および43名の死亡者が確認されました。その中で被害が最も甚大だとされた地域はトロントでした。

 

→ カナダにはアジア人コミュニティも多いです。「アジアを中心に感染拡大」という報道で、カナダ在住のアジア人に対する差別感情の誘発も懸念されました。

 

SARSはカナダでどのように広まった?

こちらでは、SARSが流行したキッカケと感染拡大の流れを紹介して行きます。

 

・キッカケはひとつの家族

カナダで初めてSARSの症状が疑われた事案は、2003年2月23日に香港旅行からトロントへ帰国した女性です。しかし、参考文献によると、彼女は最初からSARS感染者だとは認識されていなかったことが分かります。

カナダ入国後に発熱や筋肉痛、咳の症状を医師に訴えていた彼女ですが体調は回復することなく、同年の3月5日に死亡が確認されました。彼女の家族は検死を希望せず、検査官もまた「死体を調べる必要はない。」とし、彼女の死因は心臓発作と断定されたのです。

しかし、状況は次第に変化していきます。今度は、彼女の息子が発熱や咳、息切れを訴え始めました。彼は結果としてICU(集中治療室)へ送り込まれましたが、その前日まで病院内で彼の隔離対策が取られることはなく、彼と他の入院患者を隔てるものはカーテンのみでした。

 

彼も母親同様にこのタイミングでは、SARSだとは診断されていなかったのです。

 

その代わり、担当医師はこの患者に「結核」の可能性があるとして、本人の隔離および残りの家族へ自宅待機を要請しました。結核も人の咳やくしゃみから他の人へと遷る感染症だからです。

SARSとは診断されなかったものの、新たな感染者を出す危機が「偶然にも」回避される結果となりました。

しかし、言うまでもなく彼は、結核と判断・隔離されるまでの間は何の対策も取られていない状態で、他の入院患者や見舞客、そして医療従事者と接触をしていました。

 

・クラスター(集団感染)が発生

上記と同様の事例は、他の地域でも起こりました。アジア出張から帰国した北米人が体調不良を訴えましたが、SARS感染者だとは認識されませんでした。

十分な隔離対策が取られなかったことが原因で、他の入院患者や医師・看護師が次々に感染する事態が発生したのです。

また、患者側が「自分はSARSに感染しているかもしれない。」という自意識がないことで、緊急病棟ではなく町医者や掛かり付け医に診てもらうケースも多発しました。

 

SARSコロナウイルスが世に出回り始めた当初は、救急科を構えている病院にすらSARSに関する十分な情報が行き届いていませんでした。

 

病院規模の大小を問わず、医師・看護師の多くが自らを防御する必要性に気づいていなかったのです。そのようにして医療現場での「クラスター(集団感染)」が引き起こりました。また、別のクラスターは宗教コミュニティでも発生しました。

人生に困難が降りかかる場面や自分の力だけでは解決しきれない問題が起きた際は、宗教に頼る人もいます。特に「原因不明の病気」や「家族の急死」ともなれば尚更です。人々は教会や集会へ出かけ、神や信仰仲間に助けを求めました。

そこでもやはり、感染もしくは保菌者だと自覚のない人が他人と接触することで、コミュニティ内で集団感染が起きる事態となったのです。

 

→ 知らず知らずのうちに感染が広まる事象ほど恐ろしいものはありません。

 

どのような対策が取られたのか?

以下では、当時SARS終息に向けて取られた対策について紹介して行きます。

 

・追跡調査

SARS蔓延の渦中で有効とされた対策のひとつは「追跡調査」でした。追跡とは患者の過去の行動や接触者を辿り、感染源を特定することです。

最近亡くなった親族や友人が身近にいないか、体調不良を訴えている人がいないかを調査し、無症状で生活を続けている保菌者を洗い出そうとしました。

現在の新型コロナウイルスの感染拡大下でも、複数の感染者の動向をさかのぼると、同じライブコンサートに参加していた事実が明らかになりました。そして、その会場にいた他の観客にもPCR検査や外出自粛を要請し、ウイルスの封じ込めが可能になりました。

 

一方、SARSが流行した当初は、感染ルートが特定できても次の段階である「隔離」に進むのに苦労したそうです。

 

自宅隔離の承諾を本人から得たり、隔離対策が世間に浸透したりするまでに時間を要しました。また、強制力がある施策も打ち出されていませんでした。

例えば、宗教コミュニティに属している人の感染予防策として、「儀式中に同じカップでワインを飲まない、集会中の握手は控える、教会の告解室(狭いブース)の使用を避ける」などの比較的簡易な要請にとどまりました。

 

・自宅隔離

時間はかかりましたが、SARS蔓延の渦中でも「自宅待機」の概念が徐々に通じるようになりました。まずはウイルスを保菌している可能性がある人には経過観察が促されました。

SARSと思しき症状を抱えて亡くなった人のお葬式に参列した人や職場で感染疑いの同僚が出た人に対して、自宅待機が要請されたのです。

カナダの厚生省は、自宅で1日2回の検温を行い10日間(SARSウイルスの最大潜伏期間)は発熱や咳、呼吸困難などの異常がないかを観察するよう勧めました。

 

人々は自宅隔離による収入の減少や退屈を恐れつつ、「自宅にこもることで家族に遷してしまう可能性」を最も懸念しながら待機期間を過ごしたそうです。

家庭内での対策としては、「症状のある人と一緒に寝ない、食器などの生活用品を共有しない、訪問客を迎え入れない」などが奨励されました。

当時からマスク着用も有効だとされていましたが、北米では風邪やインフルエンザの「予防」としてマスクをつける習慣がありません。

 

あくまでもマスクは、病人がウイルスをばら撒かないように着用するものという位置付けです。感染者本人の着用を勧めることはあっても、患者家族のマスク使用にまでは言及していませんでした。

海外渡航に関しては、ハノイ、香港、シンガポールでSARSの症例が多く報告されており、それらの地域への旅行が重要でない場合は延期するようアナウンスされました。

逆に、症例が報告されている国からカナダに戻ってきた国民に対しても、自宅にて10日間の健康観察が求められました。また、帰国から少なくとも21日間は献血を控えることも促されたという記録が残っています。

 

→ 感染ルートの特定と自宅隔離は、現在にも通用する対策です。

 

SARS事態の終息は?

カナダの患者が最後に「SARS感染の可能性あり」と診断されたのは2003年6月12日とされています。

その後、20日間(SARSコロナウイルスの最大潜伏期間の2倍)新しい症例が確認されなかったことで、SARSの封じ込めに成功したと判断されました。

これを受け、WHOは7月2日付でトロントをSARS感染拡大地域リストから除外しました。

 

実は、トロントはそれ以前の5月14日にも感染伝播地域の一覧から外れたことがあります。当時は「4月20日にSARS症例が確認された以降は新事例がない。」としていました。しかし、その後、WHOは5月26日付でトロントを再び感染拡大地域に加えました。

カナダの保健当局からWHOに「トロント市内の4つの病院でSARS疑いの患者が26件、可能性8件が認められる。」という報告が上がったためです。

これらの症例はSARSだと明確に診断されたわけでなく、「疑い」や「可能性」レベルです。

 

しかし、SARS患者ではないと「断定」できない限りは、すべての患者が感染ルートの追跡調査および隔離の対象となりました。

 

歴史から学びつつも、現状を知り柔軟な対応を!

 

今となっては、世間の大半が「新型コロナウイルス感染者は隔離が必要」という認識を持っています。

しかし、SARSが蔓延した当初は、医療従事者でさえも感染症に対処する準備を迅速に整えることができませんでした。

これは医師・看護師自身の責任ではなく、最新情報伝達の速度や患者隔離に適した医療設備の不足に原因があったとされています。

 

感染症が最も猛威を振るうタイミングは、感染症が感染症として認識されていない段階かもしれません。

 

感染症患者が別の病気だと診断され、十分な追跡調査や隔離対策が取られないままに非感染者と接触する事態が最も恐ろしいです。

一方、現在は「自分の周りで流行しているのは新型コロナウイルスだ。」とはっきり意識でき、取るべき対策を把握できる環境も整っています。過去に感染症の流行を経験したことがない人でも、情報さえ正確に収集できれば、対処方法を知ることが可能です。

一部の国や地域では、政府が新型コロナウイルス対策を打ち出すスピード感を賞賛する声があります。そこには、病原体が異なるとは言え、過去の感染症流行時の成功例や教訓が活かされている部分があるからでしょう。

 

「歴史を学ぶ意義は、歴史上の悲劇を繰り返さないため。」という言葉もあり、確かに一理あります。

 

言うまでもなく、歴史の中で全く同じ出来事が何度も訪れるワケではありません。同じことを繰り返しているように見えても、良くも悪くも形を変えています。時代背景が異なれば、そこで生活をしている人々の状況も違うからです。

また、感染症拡大の終息後に変化していく人々の生活もあるでしょう。例えば現代のコロナ禍では、リモートワークやオンラインビジネスが積極的に導入されつつあり、今後人々の働き方とライフスタイルを大きく変えていく可能性があります。

歴史から学べることは学びつつ時代の変化に追いつき、いかなる環境にも適合していけるよう、私自身も柔軟に生活を続けていきたいです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

【参考文献】

・Renewal of Public Health in Canada / A report of the National Advisory Committee on SARS and Public Health October 2003
https://www.canada.ca/content/dam/phac-aspc/migration/phac-aspc/publicat/sars-sras/pdf/sars-e.pdf#search=%27TORONTO+WHO++SARS+first%27

 

・Situation Updates-SARS / World Health Organization
https://www.who.int/csr/sars/archive/en/

 

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