「留学=語学学習」のことなのか?英語ができるとはどういうことなのか?
先日、「留学に適齢期はあるのか」という記事で、年代ごとに感じたこと、出会ってきた留学生のことを踏まえて書きました。
「留学は若い時の方が良い。」と思う方も多いと思います。
ですが、私は個人的には長期の留学に関しては、若い時の留学が絶対良いとは言い切れないと思っています。
それは自分の経験と、多くの短期、長期留学生を見て来て出た結論です。
それではなぜ私がそう思うのか、恐らくそれは私の中の【留学】という定義と、世間の【留学】に相違があるからかもしれません。
それでは【留学】とはなんなのか、英語ができるということはどういう事なのかを踏まえてお話したいと思います。
・若いうちに留学した方が良い理由とは?
「留学」とは?
それでは、まず「留学」とは何なのか、という事から始めます。私は個人的にこの「留学」の定義にギモンを持つこともあります。特に、日本と海外ではその概念が多少異なるとも感じるのです。
辞書で「留学」を引くと、以下のような説明があります。
『他の土地、特に外国にかなり長期間とどまって勉学すること。』
それでは、この「勉学」とはどんなことでしょうか?
「留学」=「語学留学」のことなのか?
そんな中、ある時こんな意見を見つけたことがあります。
この意見を見た時にハッとしました。私の中でも「留学」と「語学留学」は別物で、実は家族からは長期の「語学留学」は禁止されており、「留学」=大学留学、大学院留学、専門学校留学という「海外に行って何か専門について勉強する。」という認識でいました。
自分は海外の大学、大学院に『留学』しながら、ロンドンの語学学校でマーケティングという仕事も経験しました。
そこで感じたことは、やっぱり特に日本では「海外に行く、英語の勉強をする」=『留学』という印象でした。
何のために「留学」するのか?
日本で「留学」と言えば、「語学留学」というイメージがあると思います。そのため、私もイギリスの大学やフランスの大学院に正規留学をしていた時にも
「留学しています。」
と言うと
「語学の勉強ですか?」
と言われることもありました。
しかし、海外では「留学」は「勉学すること」であり、その勉学とは語学ではないようです。
もちろん語学留学のケースもありますが、その場合は短期での語学留学である事が多いです。
「語学留学」はその先の「留学」に繋げるためのステップ
私の在籍する大学には大学付属の語学学校があります。ここにいる学生の多くはここで語学の勉強をして、その後に大学、大学院、専門学校に入る目的のある人が多いです。
逆に日本からの学生さんは語学を目的に来られる方も多いので、他の留学生に驚かれることがあるそうです。
「留学」をして語学を勉強するということは、その先の目的が必要になります。語学自体は「目的」ではなく、「手段」でしかないのです。
それでは語学ができるようになって、その先に何をするのか、語学を使って仕事をするのか、何か専門を勉強して、将来に繋げるのか、そこが大事になってきます。
1年間の留学で上達する英語力
それでは、例えば1年間語学留学をした場合、どのくらい語学ができるようになるのか。もちろんその環境にもよりますし、人それぞれですが、日常会話はできるようになるでしょう。
けれど、だからと言って、「その語学を使って仕事ができるようになるのか?」というと、1年では短いかもしれません。
ここで一つ、私がなぜ幼い時の長期留学を勧めないかの1つのポイントになるのですが、高校生で長期留学をし、語学が上達しやすい年齢かとも思いますが、逆に考えると、高校生が使う語彙力、表現力にはある程度限度があるのではないでしょうか?
日本でも仕事経験のない年齢ですし、そういう意味では知らない知識もまだ多いです。という事は、外国語は自分の今母国語で持つ知識以上にまで到達させるのはかなりの時間が必要です。
他の例ですが、小さい子が海外に行ってすぐに語学ができるようになりますが、年齢が幼ければ幼いほど、語彙量も知識も少なくて済みます。
そういう意味でも、ある程度の年齢、大学生以上になってからの方が母国語での知識も語彙力もあり、それに見合ったレベルの語学の勉強ができるようになる、という事です。
「語学ができる=コミュニケーションが取れる」、日常会話レベルで良いのか?
もちろん、「語学ができる」という事に関して、仕事で使えるレベルを求めていない方も多いかもしれません。
英語で会話ができれば良い、英語で外国の方とコミュニケーションが取れれば良いという方もいると思います。その場合はもちろん、その上のレベルを求める必要はないと思います。
語学留学以外で海外在住されている方、別の専門分野で留学されている方、ある程度の語学力で自分の専門を勉強される方、そして仕事をされる方は、現地に行ってから語学を一緒に学んでいく方もいると思います。
例えばサッカー選手とか、最近では海外で活躍される方もいますし、国を転々と動いている方もいます。
彼らはサッカーの専門用語は理解できますが、語学が堪能でない方も多くいます。つまり、他の能力で、語学の足りない要素を補っている部分が多いと思います。
もちろん、現地の方々に囲まれて生活をしているので、何年かすると語学も問題なくなるんだと思います。この場合は、その言語でコミュニケーションさえ取れれば良いということになります。
仕事で使える語学力とは?
では、仕事で使える語学力とはどう言ったことなのでしょうか?
実は「語学ができる=英語ができる、コミュニケーション能力がある」ということではないのではないかと思っています。
いくら英語ができても、いくら日本語も話せても、TPOに合わせて話せる、ということが大事なことだと思います。
母国語もそうですが、社会にでたらきちんとした日本語を話すことが求められます。
テレビ番組の中で、帰国子女の芸能人が正しい日本語を使えない姿、または敬語を使えない姿を見たことはないでしょうか?テレビのバラエティー番組であれば許されても、ビジネスや公的な場では許されないケースがあるわけです。
それは外国語も同じことです。例えば、中高生で長期留学をした場合、若者言葉を学習してしています。
今の流行り言葉などを覚えた場合、日本人にとっては外国語であるがために、覚えた単語が若者言葉なのか、正式な言葉なのか、分からないこともあります。
覚え間違えて失敗も…
これは私の知り合いの例ですが、現地の大学1年生と遊んでいた日本人の留学生があるスラングを覚えて、それがスラングという事をあまり認識せず、ずっとその表現を使っていたそうです。
日本語に訳してご説明すると、「知らない」「知りません」という言葉を「知らねー」と覚えていた、という感じです。
その彼女が留学時に銀行に行き、ある手続きをしている際に、「XXの書類はありますか?」と質問をされたそうです。
その際、外国語で「知らねー」と答え、銀行の方に「し・り・ま・せ・ん」と直されたというエピソードがあります。
もちろん、彼女はその国では外国人なので、単語を知らなかった、言葉を知らなかった、という事で済まされることもあります。
ですが、母国語でも同じことが言えますが、語彙力・表現力はその人の教養にもつながります。
流暢に話す、発音が良いのと、語学力は比例するのか
また、もう一つの例ですが、イギリスで中高生の短期語学研修の付き添いをしていた際、日本で英語教育に力を入れ、授業が英語で行われる高校に通っていた子がいました。
留学生は皆ホームステイをしていたのですが、ある日彼女のホームステイ先から連絡があり、彼女の受け入れを辞めたいと申し出がありました。英語ができる生徒さんだったのに、何があったのでしょうか?
実は彼女が滞在していたホームステイ先はお医者様のきちんとしたお家でした。彼女が通っていた日本の高校はアメリカ英語で、友達同士の会話は高校生が話すような若者言葉を話していました。その彼女の話し方があまりにもフランク過ぎて、失礼に感じたようでした。
逆に片言ではなく、それなりに流暢に話すので、ホームステイ先の方にすると、ただの失礼な子と映ってしまったようです。
その生徒さんと話をすると、とてもちゃんとした子で問題はありませんでした。
しかし、英語で話しているのを聞くと、確かにかなりラフで大人と会話するのには、ちょっと誤解されるのかな、という印象を受けました。
それは彼女が悪いわけではなく、きちんとした語学を勉強せず構内での言語にはやはり限度があると言うことです。
日本で見かけた英語を流暢に話す方々
同じような例で、日本で英語を話している若い子を見かけたことが何度かあります。
ある店内で商品の上に座り、一緒にいた外国人の子と大声で話している子を見かけました。
日本で英語を話している方の中には、なぜか周りを気にせず大きな声で話しているケースを何度か見かけます。
それは年齢に関係なく、大人の方でも見かけます。日本で英語で会話している方の中には、公共の場で周囲に迷惑が大きな声で話される方が多い印象があります。
そういう方々は大抵発音も結構綺麗ですし、ある程度流暢に話されていることが多いです。英語のできない方から見たら、その方々は英語を流暢に話す方々なんだと思います。
ですが、よくよく聞いていると、表現力や語彙力には限度がある印象がありました。(聞き耳を立ていたわけではないのですが、言葉が一言一句分かるくらいの大声で話されている方々でしたので…。)
英語が話せるだけではダメ
上の例のように英語が流暢に話せても、一般常識や、周囲への気遣いなど、他にも学習すべきこと、社会に出るために必要なことはたくさんあります。
また、言語は言葉そのものだけではなく、その背景にある文化や生活様式、そしてその話し方や、関係してくるんだと思います。
特に、若い時の長期留学は、ある程度自立した年齢と言えども、未成年であれば全ての事に自分で責任が持てる年でもありません。
まだまだ親や大人から色々教えてもらう年齢でもあります。親元を離れて自由にし過ぎると、他の面で欠けてしまうこともあります。
また、海外ではお酒やたばこなども日本よりも下の年齢で始めるケースもあり、日本よりもドラッグ使用率も高い気がします。
現に私も、大学でドラッグをしていた友達がいました。周りに流されやすい子であれば、未成年の時の留学よりは、やはり自己責任が取れる成人になってからの長期留学をお勧めします。
発音や流暢さも大事だが…
発音や恥かしさなどは年齢に関係するかもしれませんが、英語の発音が上手いと、その言語も上手く聞こえます。
ですが、先ほど言ったように、ノンネイテイブだから知らずに使ってしまう失礼な言葉や表現などがあるのです。
それが、流暢に聞こえるが故に「この人はネイテイブじゃないからこういう表現を使っているのか?それとも分かっていてこういう話方をするのか?」が逆に分からなくなってしまいます。
そのため、先ほどのホームステイをしていた留学生のように、誤解を招いてしまうケースもあるのです。
語学がコミュニケーションのツールであるなら、それがネイテイブのように話すことが大事なのか?それとも、きちんとコミュニケーションを取れることが大事なのか?ということになります。
社会人として大事なことは、まずは後者の方でしょう。
ネイテイブってどういうこと?
発音も表現方法も国によって異なります。最近ではアジアの国への語学留学も多く、アジアの国の方々も母国語は違っていても公用語として英語を使っている所も多くあります。
アジアの国によっては発音にかなりの訛りがあることもありますし、イギリスに行ってもそれがスコットランドでは発音が全く違います。
現地の人のように話すと言っても、現地の人の中でも年齢によっても、性別によっても、また自分の属するコミュニテイによっても話し方が変わることがあります。
私はネイテイブのように話すというだけではなく、綺麗な言葉で話すという事はとても重要だと思っています。それが自分自身の教養や知識にも繋がります。
コミュニケーション力とは?
私は日本語教師もしていますが、日本語の授業でもできるだけ文化やコミュニケーションについても多少教えるようにしています。
例えば、日本独特の「わび・さび」、曖昧な言い方など、特に日本語はそういう微妙な言い方も多いので、難しい言語だと言えるでしょう。
もちろん、それだけではなく、日本語独特の敬語の使い方もそうですし、いつ友達とのインフォーマル言葉を使うのか、フォーマルな表現を使うか、などTPOに合わせた話し方を教えるようにします。
第一言語学習でも言われることなのですが、フォーマルな話し方ができる人はインフォーマルな話し方もできるが、インフォーマルな話し方しかできない人はフォーマルな話方ができない例もあると言われています。
言語は言語そのものだけではなく、それに伴う文化や生活様式も関係してくるのです。
そういう意味で、一概に英語と言っても国によって話し方もその背景も変わってくるのです。
海外にいるからこそ母国語である日本語を!
幼少期から海外にいると、きちんとした日本語を話す機会も少なくなり、英語学習を重視するあまり日本語を怠ってしまうこともあります。
日本語を使わなくなって、漢字が書けなくなったり、忘れてしまったりということもあるでしょう。
あまり小さい時にバイリンガル教育をしてしまうと、母国語である日本語があやうくなることもあります。
もっと究極なことを言えば、日本語ができなくて英語だけできるなら、それは日本人ではなくて、外国人と同じになってしまうのです。
そういう意味でもあまり幼い時に長期海外留学、特に語学に重点が置かれている場合は、先ずはちゃんとした日本語です。
できるならば、日本文化や歴史も学んだ後の方が日本人として英語ができることが有利になります。
私はたまに通訳として仕事をしていますが、私を雇って下さる方の中で「日本語が綺麗」だと言って下さる方がいます。
その時は、雇い主はアメリカの方で日本の雑誌社の記者の方のインタビューの通訳だったのですが、その記者の方に言って頂きました。
また、他のインタビュー通訳の時に他の日本の方にも「日本語が綺麗ですね。」と言われたことがありました。日本人として語学を使う仕事をする際には、やはり日本語重要だという事です。
日本人として英語ができるということ
また、日本語が綺麗に話せることが日本人として外国語ができることの利点でもありますが、それだけではありません。
自分が日本人であるということは、日本文化や日本の習慣なども理解しているということだと言われたことがあります。
英語だけできる人を探しているなら、英語ネイテイブの人で良くなってしまいます。
英語ができる日本人が必要な時は、相手の文化理解も重要ですが、その前に日本の文化や生活を理解している日本人であることが大事だということです。
日本人として英語ができる利点は、まず母国語としてフォーマルな日本語ができて、その上で英語ができることが重要になります。
日本人として日本語がきちんとできること
ビジネスで英語を使うということ。それは英語で商談をするということですが、まずは日本語がきれいなこと、が大事だと言われます。
以前私がある会社の方とお話しをしていた時、マーケティングのことを「マーケ」と言ったことがあります。
ベンチャー企業などでは結構英語の短縮系を使うことも多く、マーケティング=マーケ、海外とのやり取りは、コレスポンデイング=コレポン、なんて言葉が飛び交います。今ではかなりこういった横文字日本語が飛び交う事も多いです。
ですが、それは誰にでも通じる日本語ではない、それはきちんとした日本語ではないということで、その後私は日本語の経済用語辞典を頂き「英語で仕事をするなら、先ずはこの単語を日本語で勉強しなさい。」と言われました。
もちろん、その方は会社トップの年配の方だったのですが、仕事をすれば年配の方もまだたくさんいますし、彼の言っていることは一理あると思います。
先ずはきちんとした日本語を知っていること、これが重要なのです。日本語の単語力も必要になってくるという事です。また、仕事の場合は、業界によっても単語が異なります。英語ができるという一般的なことよりも、ある業界で仕事ができることが前提で、さらに英語もできる方が仕事にもずっと有利になります。
英語ができる前に仕事ができること
「仕事の上で英語ができる。」ことは+αではありますが、その前にまずは仕事ができることが大事だと言います。
通訳や翻訳など語学に特化した仕事をしている場合は別ですが、そうでない場合は英語ができる人が必要であれば、通訳を雇えば良いからです。
英語はできるけれど仕事ができないと、海外に出張にも行けませんし、海外出張しても商談ができないということになってしまいます。
やはり語学の前に仕事がちゃんとできるということが大事なんだそうです。同じだけ仕事ができて、なおかつ英語ができればなお良いということになります。
留学コラム内の他記事では、以下のように紹介されていました。
とありましたが、正にその通りなのです。
・長期留学するなら高校生がベストな理由と体験談
英語だけではなく+αを!
「英語ができる」という事は+αにはなりますが、それだけの場合は就職も難しくなるケースが多いです。
その場合、やはり同じ留学でも大学正規留学や大学院正規留学などでちゃんと学士や修士など資格を取得した方が有利ということです。
英語に特化した仕事をする、一番になる(通訳家、翻訳家)になるよりは、いくつか他にも自分の特技や専門を持って、英語+αにして仕事を探す方が有利だという事です。
そういう意味でもあまり若い時、もしくは語学だけを目的とした語学留学よりは、+αの留学を目指した方が将来に繋がると言えます。