仕事における語学力とコミュニケーション力の関係性
以前に「留学=語学学習」のことなのか?英語ができるとはどういうことなのか?という記事でも英語ができるという事の本質についてお話しました。
「留学は若い時の方が良い。」と思う方も多いと思います。ですが、若い方で英語ができる方に会うと、たまに学生同士の話し方で、ビジネスとしてはちょっと不安な話し方をする方にも会う事があります。
話し方が流暢であるが故、返って失礼な態度に見えてしまうこともあることも、その記事内で解説した通りです。
「語学を流暢に話す = 自然に話す」ということにも繋がるのですが、その自然な話し方が友達との会話としてなのか、仕事でも使える語学力なのか、というのは別の時があります。
この場合の語学力は日常会話レベルなのか、ビジネス会話レベルなのか、という事にも繋がりますが、たとえ日常会話レベルでも、きちんと話せればビジネスの場でも使えます。
ということで今回は、仕事における語学力とコミュニケーション力そのものについてお話したいと思います。
仕事で使える語学力
私は今フランスの大学で日本語を教えていますが、コミュニケーション力と言うと、やはり教える際に気を付けているのは、「きちんと日本語でコミュニケーションができること。」です。
というのは、教え子には大学を卒業して仕事でも日本語を使えるようにしてもらいたいと思っているからです。日常会話ができれば良いとも思うのですが、特に日本語は敬語と友達との会話には大きな違いがあるのです。
流暢に話すことを意識すると、敬語よりも友達と話すような会話の方が自然な会話に聞こえることもあって、学生は敬語を使わない話し方を好むこともあります。
ですが、やはりある程度大人であれば、堅い敬語でなくても、「です。」や「ます。」くらいは使えるほうが良いかと思っています。これは他の語学でも言えることだと思います。
日本語に比べて英語ではあまり敬語がないように思いがちですが、それでも綺麗な話し方とそうでない話し方は存在します。
語学力は英語力だけではなく「日本語力」も
私は海外の大学、大学院に『留学』しながら、ロンドンの語学学校でマーケティングという仕事も経験し、そこでも感じたのは英語力もそうですが、日本語力も重要だという事でした。
通常は英語で仕事をしていましたが、お客様は日本の方だったので、日本語を使うことも多い職場でした。
それは、日本から来た留学生の方々だけではなく、留学エージェントさんが主なお客様でしたので、やはり仕事上で日本語を使う事も多くありました。そんな中、たまにお客様に言われていたこと。
それは、「日本語が上手ですね。」でした。
日本人なのに?と思ったのですが、海外に長期滞在している方の中には、日本語がちょっとおかしくなる方もいるそうです。
仕事で英語ができることも大事ですが、日本人として働く時には、日本語もきちんと話せるという事が大事だという事です。
「語学ができる=英語ができる」とは、コミュニケーション能力があるということにはならないかも知れません。
いくら英語ができても、いくら日本語も話せても、その両言語をTPOに合わせて話せる、ということが大事なことだと思います。
では、次に私が経験した仕事にまつわる日本語、英語に関する体験談を元にお送りします。
耳障りに聞こえる?
TPOに合っていない言葉を聞くと、たまに耳障りに聞こえることもあります。ちょっとキツい言い方ですが、本当にこれが一番合っている表現な気がします。
言語が上手い・下手というのは、話し方や使う単語自体ではなく耳障りか耳障りでないか、聞いていて心地良いかが大事なのではないかと、仕事などで語学を使って感じました。
それは、日本語だけではなく外国語である英語もしかりです。やはり、イギリスで言うクイーンズイングリッシュと言われるようなきれいな英語と、若者言葉の英語の話し方には違いがあります。
日本語でも同じだと思いますが、若者言葉を仕事場で耳にすると、ちょっとその言い方は…と感じてしまうこともあります。
人によっては、片言で話している姿は、それが教科書通りで自然ではないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私個人的としては、片言であっても一生懸命コミュニケーションを取ろうとされている姿の方が好感を持てる時もあります。
言葉だけでなく礼儀作法も大事
言葉使いだけではなく、礼儀作法や行儀なども言葉に関係してきます。以前仕事をしていた語学学校に新しい日本人スタッフさんが入った時のことです。彼女は仕事場で最初の仕事の時に挨拶もしませんでした。
語学学校で日本人スタッフとして働く場合は、お客様が日本人学生さんであることも多いです。ということは日本人としての礼儀作法なども重要になります。なので、仕事の最初は『よろしくお願いします。』ときちんと挨拶が言えるかどうかという礼儀作法は、大事じゃないかと思っています。
また、他の日、その日本人スタッフさんが私になにも言わず(私はこの時電話していたのですが)私の横にメモを置いて行きました。
そこには、『お客さん来てます。』と書かれていました。
私はこのメモを見て、彼女は話し言葉でも同じように言うのかな、とちょっと心配になりました。 彼女は語学学校で受付スタッフでした。 ということは、対お客様(この場合は日本人学生さんですが)の仕事です。その場合は日本語で話すことも多いでしょう。
そう思うと、できれば『お客様いらしています。』または『お客様いらっしゃっています。』と、これくらいの日本語がちゃんと普通に出てきてほしいところです。
語学力よりもコミュニケーション力や性格も大切な要素
他の例ですが、以前海外の仕事であるイベントのお手伝いをしてくれる方を探しており、語学学校に通っている日本人の学生さん数名に声を掛けました。
その時手を挙げてくれたのが、語学学校で一人は上級クラスの学生さん、もう一人は初級クラスの学生さんでした。
ですが、コミュニケーション力とう点では、初級者クラスの学生さんの方がかなり優秀で、語学力そのものがまだまだなのに、大人の方との対応が上手く皆に好かれる好青年でした。
逆に、上級者コースの学生さんは、語学ができるということに自信があるのは分かるのですが、約束の時間を守らなかったり、言動的にちょっと心配な所が多かったり、言葉遣いや態度にちょっと問題がある学生でした。
結果、私は初級コースにいた学生さんに仕事をお願いしたのですが、これがとっても好評でした。
この時、コミュニケーション力と語学力そのものが必ずしも比例しないものである、と感じた瞬間でした。
言葉使いは精神年齢や知性にも表れる?
語学学校スタッフの件に戻りますが、私は彼女の普段の仕事場での話し方を聞いていて、「この子はどのくらい若いんだろう?」と思ってしまいました。
と言うことは、彼女の話言葉によって、その人の『(精神)年齢』や『知性』にも関係してしまうのではないでしょうか。
せっかく頭の良い方でも、話し方でその品位が下がってしまったらとても残念なことです。
また、先ほどの語学学校の学生さんの例でも、上級コースの学生さんは既に社会人経験もある方、一方の初級者コースの学生さんは大学を休学して来られていた方でした。
それでも、初級者コースの学生さんの方が大人に対する言葉遣いなどもきちんとしていて、精神年齢的にも大人に見えました。
外国語の勉強の前に母国語である日本語を!
海外にいると、大人と接する機会が少なかったり、きちんとした日本語を話す機会も少なくなったり、英語学習を重視するあまり日本語を怠ってしまうこともあります。
ですが、日本語も英語もきれいに話すこと、これが語学という力であって、能力なんだろうな、と思っています。
最初は学習言語である英語はブロークンでも通じればいい、とも思います。けれどそれは最初の段階の話であって、もし将来的に仕事として語学を能力として使う予定なら、『耳に心地良い話し方』を目指して欲しいと思います。
私は実は海外生活20年ほどになりますが、日本にいても海外にいても、海外在住長期滞在者に思われることがありません。
じゃあ、海外在住者なのに、「その国に馴染んでいないのか?」と問われると、英語やフランス語を話す時はその国の方や、他の国の方に「日本人」という扱いはあまり受けることもありません。
すごく変な言い方かもしれませんが、私は言語ごとに自分が「多重人格者」になっているような気がしています。
言葉は言葉だけではなく、他の要素にも大きく関係しています。つまり、言葉が変わると、態度なども変わるんだと思います。
海外で活躍している日本企業の社長に言われたこと
日本でも国際化と言って公用語が英語の会社があったり、文部科学省も大学に対して国際化を働きかけたりしています。ですが、私はそんな国際化にギモンを持つこともあります。
今回は海外で活躍する、外国語を使って仕事をするということはどういうことなのか、海外で活躍する日本企業の社長の経験とお話もご紹介したいと思います。
海外で活躍する日本企業社長
以前、海外でも活躍している日本企業の社長に英語や国際人についてお話させて頂いたことがありました。
彼はもうかなり年配の方で、海外留学経験はゼロ、大学卒業後日本の大企業に入社し、そこで海外営業担当になったために、そこから英語を勉強し始めたそうです。
若い頃は主に南米、アジア、アメリカ、などを出張で周って、そこで英語で仕事をこなしていました。なので、仕事で使うから、英語を勉強せざる得なかった、と言っていました。
彼の海外経験
その後、彼はアメリカに赴任し5年間アメリカで過ごしました。その間ほぼ毎日日本食レストランに通い日本食を食べて過ごし、赴任前も赴任後も全く変わらずひと昔前の日本企業の会社員というイメージの方でした。
彼の英語も聞いたことがありますが、発音的にも話し方的にもジャパニーズイングリッシュを話されます。
ですが、そんな彼はその後会社を変わり社長になり、本来なら定年退職の年齢ですが、今でも毎年中国、台湾などアジアの国を筆頭に、ヨーロッパ、アメリカと出張をして、皆さんも知る海外の大手大企業とやりとりをしています。
日本人として英語ができるということ
そんな彼の話ですが、日本人として外国語ができるということの利点は、自分が日本人であるということ、日本文化を理解しているということだと言います。
英語だけできる人を探しているなら、英語ネイテイブの人で良くなってしまいます。英語ができる日本人が必要な時は、相手の文化理解も重要ですが、その前に日本の文化や生活を理解し、日本人であることが大事だということです。
日本人として英語ができる利点は、まず母国語として日本語ができて、その上で英語ができることが重要なんです。
英語ができたって仕事ができなければ意味がない、英語ができるだけでは意味がない。
そう私は海外留学をし始めた時から、ずっと言われ続けていました。そんな彼のお陰で、私は英語ができることが全く凄いことでも、なんでもないと思い続けることができました。
ただし、そんな彼のせいで、自己肯定力も減少してしまったので、その後の自己アピール力が足りなくなってしまった、という欠点もあることは否定できません。
なので、英語ができるだけでは駄目ですが、それだけに満足しないこと。それ以上の向上力や他に何か+αを見つけようとする努力が必要です。そして、英語そのものではないコミュニケーション力という点がどれだけ重要かということを忘れてはいけないと思います。
日本人として英語の前に日本語がきちんとできることが大事
もうひとつ、ビジネスで英語を使うということは、英語で商談をするということです。しかし、先ほども言ったように、まずは日本語がきれいなことが大事だと言います。
以前私が先ほどの社長とお話しをしていた時のお話です。彼と話をしていた時に、マーケティングのことを「マーケ」と言ったことがあります。ベンチャー企業などでは結構英語の短縮系を使うことも多く、「マーケティング = マーケ」、海外とのやり取りを指す「コレスポンデイング=コレポン」なんて言葉が飛び交います。
ですが、これを聞いた彼は私に「それは誰にでも通じる日本語ではない。」と言われ、その後私は彼から日本語の経済用語辞典を頂きました。
先ずはきちんとした日本語を知っていること。これが重要なのです。
なんとも厳しい話ではありますが、仕事などで語学を使うという事はこういう方々がまだ会社では上司でいることもあり、入社試験などでは日本語力が確かに関係することになります。
英語ができる前に仕事ができること
以前、テレビで林修先生が言っていたのですが、「英語できて、仕事ができる人」 、「英語ができなくて、仕事ができる人」、「英語ができて、仕事ができない人」、「英語ができなくて、仕事もできない人」の4つの人がいた場合、企業はどの順番で採用してくでしょうか?
林先生は、以下の順番で採用されると言っていました。
英語ができても、英語も仕事もできない人よりも採用される率が低いのか?これに疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
これは、林先生曰く、英語ができると仕事ができると勘違いする方もいる。英語も仕事もできないと、教える時に自分が仕事ができないことを自覚しているので、ちゃんと聞いてもらえて教えやすい、と言うのです。
確かに「英語ができる=仕事ができる」と勘違いする方がいないわけではないと言うのは分かります。
ですが、語学力は能力の一つではありますが、それは仕事ができるかどうかとは比例していない事が多いのかもしれません。
英語ができる、ということは+αですが、その前にまずは仕事ができること、というのが大事なことだという事です。
今の時代、「そんなことを言っても…。」と思われる方もいるかもしれません。ですが、やはり今でも大手企業の上層部の人は年配の方もいるわけですし、年配者の考え方は就職活動にも影響するのではないでしょうか。
仕事をするにあたって大事なことは、どんな相手とでもTPOに合わせてきちんとコミュニケーションが取れること。
そしてそれは日本語でも英語でも、何語でも同じことが言えるんだと思います。