日本の大学からの語学研修、海外研修の海外の大学側から見た落とし穴
現在私はフランスの大学に在籍しています。私のいる街でも日本の多くの大学が海外研修、語学研修に来ています。
いくつかの日本の大学の語学研修にフランス側スタッフとしてお手伝いをしたり、話を聞いたりしてきました。
今回はその中で感じた疑問点などをご紹介します。かなり辛口ではありますが、海外の大学にいながら感じた「反対側」からの意見として、参考にして頂ければと思います。
A大学の語学研修
① コース内容
日本のある大学は、日本の大学の冬休みの期間に私立の寮に宿泊をしながら、大学付属の語学学校に通う語学研修を開催しています。大学付属のコースは通常学期制、もしくは夏休みコースのみ開催しています。
ですが、こうして大学からのお問い合わせがあると、特別コースを開設してくれます。開設に最低参加学生数は決まっていますが、ある程度人数がいればレベル別のクラスを用意してくれます。また、希望に合わせて語学のクラス以外に課外アクティビティも準備してくれます。
課外アクティビティは、市内の美術館や博物館に行ったり、欧州議会見学に行ったりと、充実したアクティビティも揃っています。また、現地フランス人との交流が持てるように、1日昼に現地の家庭でのお昼ご飯を食べに行けるというアレンジもされています。
② 団体留学の落とし穴
このコースは、日本の大学に合わせてコースが開設されています。
つまり、日本から団体で来た学生は、同じ日本の大学から来た学生だけでクラスが編成され、他の国の学生と会うこともありません。
また、寮も他の学生も住んではいますが、同じ大学の学生と同室で滞在しています。という事は、せっかくの語学研修でも、同じ大学からの学生とずっと一緒に過ごすことになります。現地の家庭でのお昼ご飯を食べる機会もありますが、これも半日だけのものです。
こう行った大学からの短期語学研修は、大学が全てアレンジしてくれますし、一人ではないので気軽に参加しやすいメリットあがります。
しかし、団体行動が多いため、現地の人との交流や、通常語学学校であるような他国の学生との交流もなくなってしまいます。
③ 「語学研修」は自分中心になりがち
これはどこの大学の「語学研修」も同じことが言えると思うのですが、日本の大学の休みの期間に合わせて、クラスを開設しようとするため、日本の大学のニーズには合わせられますが、その国の語学学校のスケジュールには合っていません。
また、現地の家庭でのお昼ご飯を食べるというアレンジですが、大学のある機関が毎年「日本からの大学生をお昼に招待してくれる家庭を募集しています。」というお知らせが届きます。
ある年は、語学研修に来た学生数が増加し、探さなければいけない家庭数も増えて、大変だった、という話も聞いたことがあります。
また、このお知らせに私がちょっと疑問を持ってしまったのが、ある意味「現地の家庭の家に行って、タダ飯を食べさせてもらいたい。」と言っているようなものではないでしょうか…。
私は日本人なので、この募集に参加したことはないのですが、日本語を勉強しているフランス人にこのお知らせを回して、現地の家庭探しには協力することがあります。
その時に日本人の学生を2人招待した友人に聞いたところ、「全然話しをしようともしなかったし、あんまり…(楽しくない?良くない?)だった。」と言っていました。
日本の大学は自分の国から大学生を連れてくるだけで、それに合わせてこういった「学校機関が家庭探しをしなければいけない、その苦労は分かっているのだろうか…?」と思ったりしてしまうのです。
もちろん、こういった機関にお金を払っているのかもしれませんし、どういう規定かは分からりません。
日本からの語学研修は自分の希望に合わせたプログラムで、逆に留学先に合わせたプログラムではないと思ってしまうのです。
B大学の海外研修
① コース内容
こちらはフランスのある機関が運営に関わっており、その研修の一部でフランスの大学と共同セミナーを開催するというコースでした。こちらは語学研修ではなく、海外セミナーという形で、先ず日本の大学でセミナーを受講して、フランスに来るため事前準備をします。
そして、冬休みを利用してフランスに来て、その機関が提供する施設に滞在しながら、社会科見学のように、近くの企業や美術館などを見学や、フランスの大学の日本語コースと共同セミナーを開催しています。
フランスの大学と共同セミナーで、大学の単位にもなる良いコースです。またこちらは海外でのセミナーが目的なので、語学力は必要ありません。フランスの大学の共同セミナーですが、日本語学科の学生と行われるので、日本語で開催します。
私はこのセミナーにフランス側から参加したことがあります。フランス側でも、そのセミナーに向けて、いくつか日本の文献を読み、セミナーの準備をします。
セミナーの前にフランスの大学内でも学生との交流が持たれたり、一緒に街を散策したりして、その後に1泊2日でセミナーを開催します。(毎年改良されているようなので、現在のセミナーは別の形かもしれません。)
フランスの大学の日本語学習者にとっても、日本人と交流ができ、日本語でセミナーに参加したり、デイスカッションをしたりする良い機会とも言えます。
② フランスなのに日本語で成立してしまう落とし穴
しかしながら、海外でのセミナー研修ですが、こちらは語学とは全く関係なく、外国語ができなくても、日本語で全て対応できると言うのは一つの利点です。ですが、せっかくの海外セミナーで、全て日本語だけで済んでしまうというので良いのでしょうか?
私もこのセミナーに参加しましたが、日本人学生が日本人の日本語レベルでセミナーでの発表などをしているのです。
いくら日本語学科の学生とは言え、日本人の学生と対等にセミナーに参加して、日本語でデイスカッションをするというのはやはり大変なことです。
また、フランスの大学の学生とフランスの街散策では、私たちは「日本からの学生との交流」と聞いて、指定された時間に駅に集合しました。
しかし、日本人の学生さんが既にいくつかのグループに分かれており、運営機関の人たちから、「これから日本人学生さんを街案内してください。」と突然言われて、フランス側皆で困惑したことがあります。
その時期は2月の寒い時期で、その運営の方や大学の先生方は「寒いから」とカフェで待機していて、フランスの学生はこうして運営者に振り回されっぱなしでした。
③ 相手国のことを思う気持ちが大事
このセミナーに参加して、日本語学科の友人たちは日本人の方々とも交流が持てて、もちろんとても喜んではいました。
けれど、先ほど書いたように2月の寒い中、事前連絡もないまま街のガイドをさせられたり、他の日も日本語学科の授業時間などをあまり把握していない運営者は、授業中に「日本の大学の子達が今街中にいるから、すぐに来て。」と呼び出したりと、かなり横暴なスケジュールを決行していました。
日本側の大学生は海外の学生と日本語でセミナーが開催でき、デイスカッションができると言うのは利点ではあるでしょう。
しかしながら、「もっと日本語学習者の立場を理解したセミナーが開催できないのか?」と感じざるを得ませんでした。
というのは、日本語学習者は日本語が完璧ではありません。それでも頑張って日本語を勉強しているわけですから、ある程度分かりやすい日本語で話すよう努力をして欲しかった。
また、パワーポイントなどの資料の難しい漢字にルビを振っておく、もしくは事前にその資料も日本語学習者に渡しておく、などの心遣いや配慮があってこそ、こうした国際交流が上手くいくのではないかと感じました。
他にも耳にした問題点
また、日本の大学の休みに合わせたセミナーは、1つの大学からだけではなく、多くの日本の大学からお問い合わせがあるようです。そして、当たり前ではありますが、こう言った研修ではフランスの大学生との交流を持ちたいと思う日本の大学は多いようです。
ですが、2月、3月と言えばフランスの大学は休みではありませんし、フランスの2学期にもあたるので、色々忙しい時期の時もあります。
ですが、こういうセミナーを運営する機関が日本の大学との「交流」を「研修」として、大学生に声を掛けることがあります。そうすると、日本人の学生との交流を希望する学生は、授業を休んでもこういった「交流」に参加してしまうこともあるようです。
私が参加したセミナーでは、日本の学生さんとも結構交わって、セミナーの後も夜も一緒に語ったり、楽しく過ごしたりしていました。
しかし、私が参加した年以降の子に話を聞くと、セミナーの時以外は日本の学生と交わることもなく、交流もあまりなかったと言っていた学生もいました。
こうした現象も代によって異なることもあり、国際交流と言うのはなかなか難しいことなのかもしれません。
高校生のイギリス短期語学留学で感じた日本からの団体への悔しさと残念さ
他にも私の地域にある組織が、ある高校の海外研修の運営を担当しているようです。これに関して私は関わったことがないのですが、大学の日本語学習者の子達が、チューターとして学生と一緒に研修に参加するというのを聞いたことがあります。
大学だけではなく、高校でも海外研修や語学研修が行われているケースも見られます。そして、やはり現地の学生との交流が持ちたいと言う希望があってのことかと思います。
この話とは全く関係ないのですが、実は私が高校生の時に単身イギリスの語学学校に留学をした時に、日本の高校から団体で語学留学に来ていた学生さんがいました。私はこの時感じたとても残念で悔しい思いを、今でも忘れることができません。
私が行った語学学校には個人で来ている学生と、他の国からも団体で来ている学生がいました。他の国の学生は、レベル毎に他の国の子達と一緒に勉強していたのですが、日本の高校からの団体さんは、自分たち用のクラスで他国の学生と交わる事なく英語の勉強をしていました。
この学校の昼食は学校内の学食で食べるのですが、毎日凄く長い列ができます。ですが、その列に並ぶのがイヤだからと、日本の高校からの団体さんは自分たちのクラスだけ他のクラスよりも5分早く終わるようお願いし、毎日列に並ばずに一番に昼食を食べるようにしていました。
「郷に行っては郷に従え…。」だと思うのですが。私は当時高校生ながら、この学校の日本の高校生の態度には呆れてしまいました。また、クラスも他の国の子達と交わらないため、彼女たちはいつも団体で行動し、あまり他の国の子達とも交わることがありませんでした。
日本から来る団体の海外語学研修とは何なのか…
そんな中、ある日私たちのクラスでテストがある日、朝学校に行くとクラスのスペイン人とイタリア人の子達が一生懸命に何か練習しているのを見つけました。
聞くところによると、その日本の高校から来た団体さんが、スペインとイタリアの団体さんに一緒に交流会をしようとお願いしてきたとのことでした。
私たちのクラスは前々からテストがある日だと分かっていましたし、彼女たちは当日の朝に(もしくは前日夜)にお願いされたそうで、朝からその交流会のために彼女たちは出し物の練習を朝からしていたようでした。
そして、学校の授業の休憩の後、クラスのスペイン人とイタリア人の子達がいなくなって、クラスは半分ほどになっていました。これではテストもできません。そして、いつもそのイタリア人とスペイン人と仲良くしていたベルギー人の子がいたのですが、彼は教室にいました。
先生が「あなたはどうしていつも一緒にいる友達と一緒に行かなかったの?」と聞くと、「イタリア人とスペイン人のグループが呼ばれた交流会だから、僕は行けないんだ。」とちょっと寂しそうに言っていました。
私はこの時感じた、なんとも言えない怒りというか、悲しみというか、そう言った感情を覚えたことは今でも忘れません。
学校の規律も守らず、自分たちだけが列も並ばずご飯を食べ、いつも団体行動で他の学生とも交わらない、クラスも自分たちだけの別クラスを開講してもらい、それなのに「国際交流」と称して、幾つかの団体で来た外国人学生に声を掛ける。そのせいで、こうして悲しい思いをする他国の学生がいるような状況をも作りあげる。
これが「国際交流」なのでしょうか?私がまだ17歳の時に感じた、日本の学校が提供する「語学研修」に対する疑問はここから始まっているのです。もちろん、この苦い経験から、幾分偏見の目を持ってしまっているかもしれません。
けれど、その先もこうして大学からの「語学研修」や「海外研修」を目の当たりにして、私が高校生の時に感じた疑問は、少なからず見える部分があるのです。
国際交流はお互いの歩み寄りが大事
先ほども言いましたが、日本側は日本からの希望を描いて、それを留学先、研修先の国に当てはめているケースが多いなと言いう印象があります。
例えば、日本の大学の休みに合わせないといけないとは言え、フランスは学期の途中に1週間の休みがあります。
例えば、そこに合わせて研修に来たり、もう少しフランス側の大学のスケジュールなどに合わせたりと、日本側の学校がスケジュールを組む事はできないのだろうかと思います。
もしくは、日本から来て、日本食を振舞うイベントを開催してみるとか、日本の文化を紹介するイベントを開催してみるとか、その国に留学したからこそ自分たちができることをすることも大切な国際交流なのではないでしょうか?
もちろん、先ほどのように、自分本位になるような国際交流ではなく、きちんと事前準備をし、告知をし、誰でもが参加できて何かができるような、そういう姿勢が大切なんだと思います。
他国に行って自分がしたいことだけをするのではなく、その国の誰かの役に立てるような、そんな気持ちを持つことが大事なことではないでしょうか。
日本の大学の批判ではなく、海外の大学在籍者からの願い
ひとつだけ言いたいことは、これは日本の大学や学校の批判ではありません。海外の大学に在籍しながら、あまりないケースではありますが、私は日本語学科に在籍していました。
そういう稀な立場から参加した自らの体験、見聞きした海外の大学の日本語学習者の体験談や、海外の大学から見た日本の大学の海外での在り方を知ってもらいたいと思い、今回このような記事を書きました。
そして…日本の大学関係者には、少しでも参考にして頂ければ有難いと心から思っています。
日本からの海外研修や語学研修のスタイルが決して間違っているとは思いません、けれど、私が昔から一人で留学をしていて出会ってきた団体さんがどうしても、日本本位に感じてならないのです。
海外研修は自分たちが何かを学び取って行くだけではなく、その国に自分たちも何かしらの形で貢献できないか、お互いが歩み寄るという事が大事なことではないでしょうか。
また、相手のために役に立つことはできないかと考えることは、大切な国際交流の一歩だと思うのです。