どうしたら語学が上達するのか?発音を上手くするには?
私は現在、フランスの大学院の博士課程でインフォーマル語学学習(授業以外でどのように言語を勉強するか)に関する論文を書いています。
ある意味、語学学習に関する専門家を目指しているわけですが、最初は自分が語学を勉強してきましたが、それを学術的にちゃんと学ぶことにしました。
今回は「発音」をテーマに、自分が実際にしてきた語学学習に関してお送りしようと思います。
年齢と発音の関連性
前回記事で臨界期仮説を取り上げました。
簡単におさらいすると、「臨界期という年齢を過ぎると言語の習得が不可能になる。」というもの。
さらに第二言語習得の場合、15歳が年齢の境目という説明をしました。
発音の場合は、ネイティブ並みの発音で話せるようになるための年齢の限界は12歳という説もあります。(水田, 2000)
私は周囲からフランス語の発音がきれいだと言われることがありますが、私が生のフランス語を耳にしていたのは12歳の時からです
しかし以前の記事でも書いた通り、12歳からの3年間の中学留学において、フランス語が向上したという意識は全くありません。
しかし、発音と言う部分に関しては、生のフランス語を聞いていたため、無意識にプラスの影響があったのかも知れません。
「年齢で発音ができるようになるかならないかが決まってしまうんじゃ、どうしようもないじゃないか!」ということになってしまいますね。
もちろんこれは仮説であって、私の例ももしかしたら…という事で、なにも科学的証拠はありません。もちろん、発音が上手くなるための他の方法もあると思います。
私もちゃんとフランス語を話せるようになったのは20代になってからですし、フランス語の発音も20代以降でも上達していると思います。
それでは、どんな方法で発音を上達させると良いのでしょうか?
発音矯正を受ける
語学学校には、発音矯正というコースがあります。私は以前イギリスで英語の発音矯正を受けたことが数回あり、そのお陰で英語の発音がかなり変わりました。
私の場合は、たまたま日本語を勉強したいという英語の先生の友人がおり、私が彼女に日本語を教える代わりに私の英語の発音矯正をしてくました。
日本で英語の勉強をしたせいで、当初はアメリカ英語っぽい発音だと言われましたが、この発音矯正を行うことで、ブリティッシュ英語で話せるようになりました。
発音矯正をすると、その音をどうやって出すのか分かるので、かなり役に立ちました。
次にフランス語の場合ですが、実は声楽(オペラ)を勉強していたフランス人の友達がいて、彼が物凄く発音にこだわる子だったため、話していると必ず発音を直してくれました。
オペラは原語で歌うのが基本なので、ドイツオペラはドイツ語、イタリアオペラはイタリア語で歌います。そのため、発音がきちんとしていないと何を歌っているのか分からなくなるので、オペラにとって発音はとても大事な要素なのです。
そんな友達は、例えば1つの音がちゃんと発音できないと、先ずはそれを発音してくれて、それから私が発音した時に、「もっとこうして!」とできるようになるまで繰り返し教えてくれていました。そのお陰で、ある程度発音に関しても上達したかと思います。
私のエピソードのような発音を直してくれるまでの友達を見つけるのは難しいです。しかし、たった数回の発音矯正レッスンを受けるだけでも、かなり発音が上達するので、もしも発音が気になる方は是非受けてみると良いでしょう。
音楽や演劇をしているような友達がいると、彼らも発音の必要性、重要性をよく知っているし、活舌も良いはずなので、そういう友達がいると良いお手本になります。
また、お願いしてあなたの発音をチェックしてことは可能だと思います。
とにかく多くのインプットを!
言語習得において、インプットが大事だと言われています。(KRASHEN, 1981)
私は大学で日本語を教えているのですが、日本語の発音が上手い子とそうでない子がいます。
日本語が上手な子に話を聞くと「日本語でアニメをたくさん観ています。」という子が多いのが事実です。
実際、大学で日本語を勉強する場合は、日本語そのものを勉強するのではありません。日本学を勉強することになり、実際に生活や仕事などで使える日本語ではなく、その先の目標として大学に残って日本学の研究者になるための勉強をします。
ですので、日本の語学教育と同じように先ずは読み書きから、そしてテキストの翻訳ばかりをします。
また、翻訳と言っても現代文ではなく、古典や明治時代のテキストなども読むことがあります。
そのため、日常会話の勉強などはあまり無く、大学で3年間(フランスの大学は3年間)日本語を勉強しただけでは、日本語が話せるようになりません。
ですが、「日本語でアニメを観ます。」や「日本のドラマも観ます。」という日本語学習者の中には、日本語がある程度話せる子も少なくありません。
そんな彼らのアニメ、ドラマ視聴時間はかなり多いと言え、それだけ日本語のインプットがある日本語学習者は、日本語が耳に慣れているせいかある程度発音もきれいな場合が多いです。
このような事例を間近で見ている限り、まずはその言語を耳に慣らすことが、発音を上手くなるコツの1つかもしれません。
どんなインプットが良いのか?
英語の学習の場合は、英語の映画などは多くありますし、最近ではNetflixなどでアメリカのドラマなども視聴可能です。YouTubeなどでも多くの動画があります。
そういったものを活用して、ますは語学のインプットを増やしていく、というのが第一のポイントです。
「話せるようになりたい!」という方が多いですが、アウトプットの前にまずは多くのインプットを増やし、徐々にその言葉に慣れると、発音の上達にも繋がると思います。
ですが、「英語よりフランス語の発音は難しいんです…。」と言われる学生さんも多くいます。確かに、フランス語の発音は難しいと思われています。特に「R」の発音が難しいことに加え、A E I O Uの母音が5つ以上あり、日本語にはない発音があるので難しいと言えるでしょう。
フランス語も、やはりYouTubeなどで分かりやすいフランス語学習の動画を見て、耳に慣らすと良いでしょう。自分の語学レベルよりもあまりにも難易度の高い内容だと理解できないので、初心者や初級者の方はフランス語学習用のYoutubeなどを利用することをお勧めします。
最近は、YouTubeの動画にも字幕が付いている時があります。そう言った字幕を利用すると音声だけではなく、視覚的にもその言のインプットができるので、理解力が向上するのがお勧めです。
学習言語の映画のDVDを観る
字幕に関して言えば、ある程度のレベルでしたら、映画のDVDを観ることもお勧めします。
映画のDVDには日本語字幕の付いているものと、聴覚障碍者のための原語字幕が付いていることがあります。
以下のような手順でDVDを見ていくと良いでしょう。
これは3回観るということではなく、もっと多くの回数を観る必要性があります。特に②の視聴方法を何度か繰り返し行います。その後、③の方法で視聴して、自分の理解力と読解力を鍛えていきます。
私も今でも可能な限り映画を観る時は英語の映画なら英語字幕を、フランス語の映画ならフランス語字幕をなるべく付けるようにしています。
こうすることによって、分からない単語も覚えていくことができるからです。
留学先ではなるべくネイティブの人と話す
上記で紹介した学習方法は、日本での学習方法としてお話ししました。
しかし、このインプットを増やす方法は、ネイティブの人に会えない時のものです。
もしも留学先に滞在しているのであれば、現地の人とのコミュニケーションを増やすようにすることをお勧めします。
当たり前ですが、留学で一番大事なことは、現地の人と交流を持ち学習言語を話す機会を増やすことです。先ほどのインプットの理解力向上の方法の他に、インターラクションによるインプットというのがあります。インターラクションというのは対人関係によるインプットです。
ネイティブの人か自分よりもその言語が上手い人と話すことによって、学習言語の理解力を高め、言語学習に繋がっていきます。(LONG, 1983)
インターラクション的インプットの場合は、分からなかったフレーズや言葉を繰り返して言ってもらったり、ゆっくり言ってもらったり、また他の言葉に言い換えてもらったり、という具合に言語理解力を高めることができます。
そのため、現地にいるのであれば、なるべく多く現地の人とコミュニケーションを取るという事を大事にしましょう。
当たり前ですが、これこそがインプットを増やすのに最適な方法であり、先ほど話したように、言語に敏感であろう演劇をしている人や声楽などをやっている人と友達になれれば、発音上達にも繋がっていきます。
また、外国人で言語学習をしたことのある人、特に日本語学習者は日本人にも日本にも興味があることが多いです。
こういう人たちと友達になると、やはり相手も言語の興味があるため、言語学習に繋がりやすいこともあります。
現地人とコミュニケーションを取る方法
ただ、語学学校に通っている限りは、語学学校にネイティブはいませんので、現地の方と簡単にコミュニケーションが取れません。
そのため、日本好き、日本文化好き、そして日本語学習者は日本人の友達が欲しいと向こうも思っていることが多いです。
スマホアプリの「Meetup」などで、そういう人たちと会える機会を作ると良いでしょう。
それ以外には、海外大学でも日本語学科や日本語のクラスがあるので、そうしたところにコンタクトを取ってみる。中には、「友達になりましょう!」という張り紙を出しているケースもあります。
なるべく学習言語のインプットを増やすために、お店に行ってもできるだけ質問をしてみたり、話す機会の多い市場(マーケット)行ってみたりするのも良い試みです。
色んな方法で、インプットを増やす努力をしましょう!
言語は生まれ持っての能力か?
私は現在3言語を話し、その他プラス2か国語を多少話します。
そう言うと、周りの人に「生まれつき持っている、何かしら言語に長けた能力があるんだろう。」とか「言語学習が得意なんだ。」言われることがあります。
確かに小さい頃から海外留学をしているので、ある程度環境的に恵まれていたかもしれません。
けれど、その大きな要因は、その言語のインプット量が多かったからとも言えます。
語学は先天性のものか後天性のモノか…。と言われれば、確かに世の中には語学が苦手な人もいれば、多言語話せる人もいます。特に国によっては多言語国家も多くあります。けれど、それはある程度環境のお陰と言う答えで片付いてしまいます。
英語力に長けていると言われる北欧の人たちなどは、テレビで放送される外国語映画(英語)は音声吹替ではなく、言語+字幕付きだと言われています。という事はテレビを付ければ、多くの英語に触れる機会が多い環境にいると言えるでしょう。
今ではYouTubeやNetflixのお陰で、同じような環境を日本にいても作り出すことが可能です。一昔前に比べると、学習言語を耳にできる機会は多くなったと言えるでしょう。
言語に長けているか否か、また耳が良いかどうかという話ではなく、「どれだけその言語に接しているかが一番大事」なんだと思います。
努力は他人には見えない部分です。私も、自分がどれだけ生活の中で、学習言語に触れてきているか分かっています。
簡単なレベルから学習言語を耳にするようにして、少しずつ耳に慣れてくると、その音に慣れていき、発音の上達にも繋がっていくんだと思います。
次回は、私がどうやって語学を学んできたのか、発音だけではなく他の要素も含めてお伝えしたいと思います。
参考文献
Krashen, S (1981) ‘Second Language Acquisition and Second Language Learning’ Pergammon Press
Long, M. H. (1983). Native speaker/non-native speaker conversation and the negotiation of comprehensible input1. Applied linguistics, 4(2), 126-141.
水田愛. (2000). 年齢が第二言語習得に与える影響: 早期英語教育のあり方を問う.