ライブに行ってきた時のはなし ~文化と個性のるつぼ~
ここ2週間、5年前に自分が初めてアメリカに行く前に経験したことを、アメリカ留学を目指している人、そして今まさに準備をしている人達に向けて書かせてもらっていた。
最初の予定では、時間を追って高校留学の時の経験を今週も書かせてもらう予定であった。
だけど、今週ロサンゼルスで、誰かに話したくて仕方がないほどの体験をした。
それは、Charli XCX(チャーリーXCX)というアーティストのライブに行ってきたのだ。アメリカは皆さん知っての通りエンターテイメント大国だ。大小問わず様々なジャンルのライブがそこら中で行われている。
音楽が少しでも好きな人であれば、一度は本場アメリカでのライブに行ってみたいと思うはず。日本とアメリカでの違いを伝えるのはもちろんだけど、やっぱりいくら勉強や日常で疲れていても、好きな音楽を沢山の人と一緒に浴びれると思ったら日々頑張れるはず。
ここでそのキラキラした体験を色褪せないうちに書かせてもらって、今留学中の人、そしてこれからの人の励みに少しでもなればいいと思っている。自分の周りの友達はもううんざりしてるかもしれないけど、敢えてここで感じたことを書かせてもらう。
アメリカのライブ
アーティストのライブに行ったことのある人は沢山いると思う。
しかし、「英語だらけだし、大体日本と何が違うか分からない!」という海外でライブに行ったことがない人のために、チケット購入の手順をはじめ、日本との違いを大まかに説明させてもらう。
・チケット購入
これは日本と同じく色々な購入の仕方があると思うけど、自分はLive Nationという大手ライブプロモーション会社のアプリで購入した。
日本で行われる海外アーティストのライブは、メジャーなアーティストのライブであればある程、抽選発売のケースがほとんどだが、やっぱり本国アメリカでは北米ツアーとして行うため、都市での開催回数がそれなりにある。
だから抽選を使っての販売より、売り出す時間をあらかじめ告知していて、そこから早い者勝ちでチケットを買っていく仕組み。どうしても行きたいアーティストのライブならば、時間をカウントダウンしながらパソコンの前にスタンバイするのが一般的。
自分がロサンゼルス公演のスケジュールを見た時は、まだ公演の一か月程前で席が残っていた。ただアーティストによっては、やっぱり発売後数時間で即完売というも未だにザラである。
支払いはやっぱりクレジットカードで、チケットは発券されずに携帯にデータとして残る。入場をする時は携帯を機械にスキャンして入場する。
チケットの値段も本当にピンキリで、今回は最安のチケットが$20から、スタンディングという一番近くのエリアだと$200程であったから、割と気軽にライブも楽しめると思う。
・さぁ、ライブに入場!
入場のセキュリティチェックは、流石銃の国アメリカ、かなり厳しくなっている。飛行機に乗る時に使うような全身チェックが入り、もちろんバッグの中や食べ物、飲み物も厳しく取り締まっていた。
そしてようやく会場に入ると、中は映画館のようは雰囲気でアルコールやソフトドリンク、ポップコーンやホットドックなどの食べ物が売っている。物販は日本とあまり変わらないが、やっぱりそこはアメリカらしくスエットシャツも試着させてくれる。軽快にピンクがこの中ではおすすめだとか、今回はこのTシャツのデザインが1番可愛いとか、明らかにおじさんの個人的好みの推しを教えてくれた。
自分はおすすめのピンクのTシャツをがっつりスルーして、黄色のスエットシャツを買った。値段も日本の物販の値段とほとんど変わらなかった。
アーティスト(チャーリーXCX)に関して
ここまでライブ開始前までの流れを細かく解説したが、「そもそもチャーリーXCXとは誰なの?」と思っている人も少なくないだろう。むしろ、すぐに分かった人がいたら友達になりたい。
細かい説明は泣く泣く割愛するが、彼女はロンドン出身のポップアーティストで、皆大好きセレーナゴメスやカミラカベロなどのアーティストに楽曲提供をしていたりする。テイラースウィフトのワールドツアーのオープニングアクトとして世界中を周っていて、日本公演でパフォーマンスしてた彼女と言うとピンとくる人もいるかもしれない。
Boom ClapやBoysといったヒット曲があるにも関わらず、日本でソロ公演を行なうことはなかった。理由は様々あると思うが、やっぱりファンの多くは欧米ベースである事が大きな理由だと思う。
なぜ日本で欧米程受け入れられなかったのかは、”Unlock It”という彼女の曲を聴いてみて分かると思う。中には少し不自然で、「何だ、この曲は?」と思う人もいるだろう。簡単に言うと、このユニークさが受け入れられるのが欧米だということだと思う。
これはあくまで自分の個人的な解釈だけど、日本はどちらかというと分かりやすい音楽を楽しむ傾向にあると思う。いい意味で予想を裏切らない、期待通りの流れでいく”Shape of You”やカミラカベロとショーンメンディスの”Senorita”(これもチャーリーの作曲!)が日本のチャートの中でも活躍している。
しかし、アメリカでのロングヒットはBillie Eilishの”bad guy”や、Lizzoの”Truth Hurts”(これらを聴き比べてみると、違いにびっくりすると思うので、興味がある方は是非聴いてみて!)といったキャッチーさの中にもサプライズがあるような曲が、チャートにステイしている。そんなアメリカと日本の音楽への感覚の違いも、このアーティストには深く関係していると思う。
彼女のバックグラウンド、そしてカルチャーの違いとして触れておきたいのは、彼女はLGBTを強くサポートしているということだ。
ライブの曲紹介でも「この曲はゲイ(この場合、女性と男性両方の同性愛者の名称として使うことがある)の皆のため!」と高らかに宣言している。また、ライブ会場のロビーには同性愛者をサポートする団体の募金箱や資料が結構なスペースと人数で置いてあるところを見ると、本当に彼女が彼らをサポートしているんだなと分かる。
だからライブ会場はメイクやヒールをばっちり決めた男の子達や、女の子同士が手を繋いで物販の列に並んでいて、心なしか普段よりも堂々とした彼らの姿が目立った。
最初は正直自分もその独特の雰囲気に圧倒されていたが、すぐにその誇らしいポジティブな空気が心地良くなって、自分もなぜか誇らしくなっていた。
これもまた、残念ながら今の日本では体験出来ないだろう空気だと思う。アメリカ、特にここカリフォルニアでは近年でLGBTにオープンになってきているが、やっぱり人の古い常識はすぐには治らないものでもある。
だから彼らがどこでも歓迎されてきたかと言えば、残念ながらそうでないのも現実。そんな中で、自分のいいと思った音楽を貫き通すチャーリーXCXは、LGBTコミュニティの大きな光になっているに違いない。
会場の外から既に熱気が…
日本のライブでもよく見られるが、アメリカのライブでもスタンディングエリアがある。そこのチケットは一律$200くらいだったが、ステージの1番近くに行けるのは早くから並んでいた人達のみ。ということで、会場の外には長い列ができていた。
ライブは火曜日にあって、開場2時間前には会場を一周する程の列になっていた。平日の朝や昼間から並んでいた人達は、学校や仕事を休んできていたに違いない。そんな熱心なファンの人達は、やっぱりLGBTの人達がほとんどで、もうチャーリーXCXのmerch(マーチャンダイズの略で、日本でいうグッズや物販のこと)のフーディーや、ビカビカのワンピースなどそれぞれに思い思いの服を着て友達や恋人と並んでいた。
道に座り込んでハンバーガーやフレンチフライを食べて待っている人達を見ると、やっぱりここはアメリカだなぁと再感。開場した途端に、彼らは会場内のスタンディングエリアゾーンに走りだす。ここまで彼らは何時間も並んでいるのだ。「ここまで来て負ける訳にはいかない。」とばかりにみんな必死だ。ドリンクの売店のおばさんから「走らない!」という学生時代に聞いたような怒号をもろともせず、必死にステージの前に向かって走っていった。
指定席の人は比較的ゆっくり来ていて、会場外の列も20人以下ぐらいだったと思う。自分の後ろに並んでいた女の子2人は、授業中でもライブのことしか考えられなかったと興奮気味に言っていた。
かと思ったら自分の前にはいつもはTyler, The Createrを聴いているんじゃないか、というようなオシャレなヒップホップ系の若い男の子達がワクワクしながら並んでいた。他にも60代くらいのおじいちゃんとおばあちゃんが手を繋いで並んでいるのを見たし、自分の思っていた以上にファン層が本当に広かった。
また、今回のロサンゼルス公演ではなかったのだが、彼女は他の公演先では列に並んでいた最初の50人とツーショットで写真を撮るという「ミートアンドグリート」を行なっていたようだった。
ある公演では朝5時から、そのために並んでいた人をツイッターで見かけた。テイラースウィフトなどのスタジアム級アーティストのミートアンドグリートは、$300以上するVIPチケットを買った人のみだとか、抽選だとか、本当に様々である。
チャーリーXCXのライブ模様は、ライブ開始前から既に愛が感じられる雰囲気だった。
豊富なゲストの登場
日本のアーティストのライブでも時々見られるが、やっぱりここアメリカのライブでも飛び入りのサプライズゲストが登場することがある。特にニューヨークやロサンゼルスなど大都市で起きる事が多い。もちろん、今回のロサンゼルス公演でも沢山のゲストが会場を沸かせていた。
まずはオープニングアクトだった、彼女の曲にもよく参加しているBrooke Candy。流石時間にルーズなアメリカ人、この時点ではまだ客席の4割ぐらいが空いていた。
彼女のラストの曲で、有名なドラッグクイーン(バーレスクのような衣装でパフォーマンスする男性)がステージに現れた時に会場のボルテージは一気に上がった。そこで前の席に座っていた男性が、僕たちもドラッグクイーンとして活動していて、「彼女は僕らからしたら本当に神様みたいな人なんだ!」と屈強な肩を振るわせながら興奮気味に教えてくれた。
後から調べたら、その有名なドラッグクイーンの名前はLaganja Estranjaというアメリカで有名なゴールデンダンス番組の「So You Think You Can Dance」にも出演していた人だった。
ライブの中盤では”Warm”という曲に参加している3人組のアーティスト、Haimがサプライズで登場。会場の天井が抜けるかと思ったのは自分だけじゃないだろう。
その後もドイツ出身のアーティストKim Petrasが参加するなど、とにかくお祭り騒ぎであった。海外のアーティストのライブで、ここまでのゲストが来るというのも本国アメリカならではだと思う。
エンタメの魅せ方の違い
今回のライブでもっとも感動したことの一つが、日本とアメリカの魅せ方の違いだ。そもそも、日本のポップソロアーティストで、ダンサーを付けずに1人で魅せきるアーティストを自分は知らない。
日本で言うところの「シンガーソングライター」でもない限り、アーティストが踊れなくてもダンサーを付けるケースがほとんどだと思う。もちろんその方が見栄えはいいし、オーガナイズされているだろう。
だけどチャーリーXCXはダンサーを雇ってツアーをすることは基本的にないし、彼女自身ダンサーではない。だけど彼女の曲はどれもうねるようにべースが効いていて、エッジの効いたものばかりだ。彼女にとって、自分がダンサーとしてトレーニングしてきたかはさほど関係がないのだと思う。
なぜなら彼女はめちゃくちゃ踊るから。その動きは日本や他のアーティストと違って、見栄えがいいものではなかったりもする。だけどパッションや音楽への情熱は他のどのアーティストよりも伝わる。
特に日本ではアーティストがメジャーであればある程、このケースは少なくなると思うが、グラミークラスのアーティストが、(だからこそ)そこまで自分のスタイルを貫き通して表現するのは感動した。
「形」だけじゃなくて、音楽と自分にとことん真っ直ぐに表現する「姿勢」を評価して感動するのは、日本とアメリカの違いの一つなんじゃないかと思った。
だからといって、彼女がみんなを置き去りにして自分だけが楽しんでいたワケではない。1人でもしっかりステージに映えるように、両サイドにはライトはキューブが配置されて、彼女が真ん中に立つだけでゴージャスに見えるステージングとなっていた。
ライトなどはもちろん音楽に合わせて色やタイミングも合わせられていたが、やっぱりこういったテクニカルな演出等は日本のエンターテインメントの方が長けていると思う。ホログラム等のテクニックは欧米にも多く見られるけど、細かいタイミングやスクリーン、ライト等の使い方は日本の方が繊細で細かい。
考え過ぎかも知れないけど、日本は古くから建物を建てたりする時にも素材や環境の良さを活かしてきた。この向きにはこの木がいいだとか、この環境にはこの形が合うとか、「今あるもの」から何がベストかを選ぶスキルが長けていると思う。
それに対して、アメリカは「今ないもの」を見つけて、創り出すスキルが長けていると思う。
例えば、一つのシーンをどう撮るかアイディアがあったとして、日本人であれば手持ちのカメラでどうやったらそう撮れるかを考えるところを、アメリカの人達はそのシーンのためにカメラごと作ってしまう、といったことだ。
そのマインドでアメリカは初めて月に行って、電話を発明したんじゃないかと勝手に思っている。今ないものは、本当は身の周りに溢れているはずなのに、殆どの人はあるもので事足りるように考えてしまうと思う。そこに敏感な人ってアメリカに多く見られるんじゃないかと思っている。
感動した魅せ方として心に強く残っているのが、毎回のライブでチャーリーXCXとステージに立ちたいドラッグクイーンやパフォーマーの人達をSNSで募り、彼女自身が選んでステージに上げるという演出だ。
これ程ファンと繋がるのに適した方法は無いはずなのに、日本ではそのケースを見たことがない。この素人のファンをステージに上げる演出は、彼女だけじゃなくて古くはマイケルジャクソンから、最近ではアッシャーまでが使うもので、これ自体は新しいものではない。
これにはまずアーティスト自身がどんな事をするか分からないファンに対応して、ショーとして魅せ続けるための地力が必要だから、これが成立するのは本当にスキルがあるアーティストだからこそ。
そしてファンの人がステージで、何万人を前にして堂々と踊れちゃうのがアメリカ人の凄いところ。
ダンサーでもない人がステージに上がる事も全然あるけど、おばちゃんだろうが子供だろうが全然オープン。
これは絶対に日本とアメリカの国民性の違いだと思う。日本人でいきなりステージに上げられて、思いっきり踊れちゃう人ってそんなに多くないんじゃないかと思う。
国民性の違いということで言うと、印象的なシーンがもう一つあった。ライブも後半で、めちゃくちゃに盛り上がっている曲で、ステージ上が突然真っ暗に。
チャーリーXCXの姿は誰も見えないが、見えてくるのは客席に向けられるカラフルなライトとレーザーのみ。そして彼女は、「これはあなた達の曲!あなた達がパーティーする曲よ!」と言って、暗いステージの中で歌い続けていた。
そこでは、みんなが本当にパーティーしていた。自分にだけライトを向けて歌いきることも出来たはず。
そこで客席にフォーカスした彼女は、本当のエンターテイナーだと痛感した。また、そこで思いっきり踊れるのもアメリカ人のいい文化だと思った。
そんな個性と自信で満ち溢れた2時間半のショーもあっという間に感じた。会場のオーディエンス皆が幸せそうに、踊り疲れて汗ばみながら会場を出て行っている時、ステージに目を向けてみた。
そのステージは、LGBTサポートのシンボルである虹色に輝いていた。