ロサンゼルスの生活を彩る曲達 ~ロスにまつわるヒット曲 Part1~
あなたは朝起きて最初にすることはなんだろう。アラームを止めてそのまま携帯の返信をチェックしたり、とりあえず歯を磨いたりする人もいるだろう。
自分はまず、朝起きたら大体の場合曲が頭に流れてくる。なので、まずはその曲を聴くことから一日が始まる。音楽には、眠くて重い体を持ち上げて1日をスタートさせる大きな力があると思う。
その朝に聴く音楽は、自分に起こっていることによってThe Weekndみたいな暗いアーティストだったり、Carley Rae Jepsenみたいに底抜けに明るいアーティストだったりするから、自分の心を本当に反映していると思う。
また、そんな訳で朝起きてからはもちろん、Air Podsのおかげで移動中も音楽を聴いている。そして学校が終わってからダンススタジオに行っても音楽を浴びている。先生の音楽的好みは、自分にとって誰のクラスを受けるかが左右されるものすごく大切な要素である。
例えその先生のダンススタイルが自分とは違って少し抵抗があったとしても、もしそのクラスでマイケルジャクソンが流れていたら、迷わずに受ける。いくら振り付けが難しくても、好きな曲で踊るとなれば諦めずに頑張ろうと思える。
これは多くのダンサーに分かってもらえることなんじゃないか。だから、自分の受けるクラスより前のクラスから自分の好きな曲が流れてきたら、「来週は絶対に受けよう。」と思ったりする。
音楽がなければ自分は絶対に体を動かしたくないし、汗なんてもってのほかだけど、音楽が無くなってしまったらコントロールすらしたくなくなってしまう。そんな風に運動嫌いな自分みたいな人をも動かす力を持っているのが、音楽なんじゃないだろうか。
そしてまた面白いのが、インターネットが世界の距離をギュッと縮めたとはいえ、流行りの音楽は国によって違うということだ。コーチェラ(毎年アメリカで開催される世界最大級の野外音楽フェス)にPerfumeが呼ばれてパフォーマンスしたのは日本人としてとても嬉しいけど、曲がアメリカのヒットチャートに入らなくても仕方がないと思う。
それは彼女たちの音楽のクオリティの問題ではなくて、文化の違いである。その国や場所の文化によって、受け入れられる音楽は少なからず変わってくる。今週紹介するのは、ロサンゼルス生活を彩る曲たち。こちらで現在進行形で流行っている曲もあれば、個人的に「ロサンゼルスと言ったら!」といった曲もある。これらの曲を聴いてロサンゼルスに気持ちだけでも訪れることができたら幸いだ。
Chill Time(落ち着く時間)
音楽を聴く時に、その曲やアーティストに思い出があるし、「楽しかったあの時に聴いていたあの曲」という風に記憶していく。その場面によってムードを変えてくれるのが音楽で、自分達は知らず知らずのうちにそれを活用して、それと一緒に生活しているのだ。
そう考えるとなんだか服に似ている。ジャケットを着るとそうなるのだが、未だにジャズを聴くと少し背筋が伸びるし、スエットを履いた時みたいにヒップホップを聴くと、少し肩の力が抜ける。そして音楽があれば大体のところには行くことが出来る。
その曲の思い出が渋谷やバージニアに連れていってくれることもあるし、ジャズ・ボサノバの名盤”Getz/Gilberto”は、自分の行ったことのない綺麗な砂浜が見えるビーチハウスに連れていってくれる。
そして、なんならグラスに小さなパラソルが刺さっているオレンジ色をした何かしらのアルコールを飲んでいる。行ったこともなければ飲んだこともないものを体験させてくれて、気持ちだけでもどこにでもいけるのが音楽だと思う。
そしてその行き着く場所の中で、落ち着く場所や落ち着かない場所、人それぞれあると思う。猫みたいに狭いところにいたい人もいれば、開けた草原に寝そべるのが好きな人もいる。自分の友達には、何故か片方の膝を抱えて寝そべるのが好きな人もいる。
そんな感じで、ロサンゼルスが落ち着ける場所だと思う人はどうやら少なくないようだ。ニューヨークやワシントンD.C.はどこか「ビジネスの街」といった感じで、強い意思を持って歩いてる人が多かったように感じる。
どこかに行かなきとか、何かをしなきゃとか、そういったことを顔に書いて大股でスタスタ歩く人たちが、身体中を巡る血みたいに街の中をまわっていた。だけどここロサンゼルスは、何も考えずにとりあえず歩いてみる人が多い気がする。
もちろん忙しい人は確かにいるのだけれど、ふらふらーっと「とりあえず歩こうか」といった感じで、ニューヨークではブラックコーヒーのところをロサンゼルスではさっぱりしたスムージーを片手にのんびり歩く感じ。そしてからっとして日差しが沢山の気候も手伝って、「まぁのんびりいこうよ。」と太陽が話しかけてくる感じがする。
そうなると、この”Chill Time”プレイリストはどんどんリピートになっていく。東京はきっと今日もせかせか忙しいのかも知れないけど、このプレイリストでロサンゼルスの日差しを感じれるはずだ。
“Make It Better” by Anderson. Paak from “Ventura”
今ではすっかり有名になって、GUCCIを全身に身に纏い、大きくてビカビカなサングラスとカラフルなニットキャップがトレードマークのグラミースター、Anderson. Paak(アンダーソンパーク)。
ラッパーになる前にはドラマーとして活動していた彼らしく、安定したグルーヴとちょっとガサついたボーカルのラップが履き込まれたリーバイスみたいな味を出している。今ではマディソンスクエアガーデンのライブをソールドアウトにさせる彼の音楽の魅力は、その泥臭さもあると思う。
ではどこからそのリアルな泥臭さが来るのかというと、実際彼はラッパーとして成功するまでの間ホームレスだった時期があるからだ。そんな状況を息子と乗り越えて、今ではウィルスミス主演のアニメ映画の主題歌を務めるまでになったところに、アメリカンドリームを感じてしまうのは自分だけではないんだろうか。
彼のアルバムのタイトルはカリフォルニアのビーチの名前からとっている。「ベニス」、「マリブ」、「オックスナード」ときてリリースされた今回のアルバムのタイトルは、「ベンチュラ」である。
この曲を聴いてもらって分かる通り、このアルバムはラップというよりもはやソウルアルバムである。例えば、これが1975年にリリースされていても不思議じゃないんじゃないかと思ってしまう程のファンキーでソウルフルなサウンドが統一されている。でもしっかり、André 3000を招いた”Come Home”で聴けるような今風のサウンドも押さえてくるあたりは流石。
バラエティに富ながらもルーツであるソウルにリスペクトを忘れない傑作だ。子供と写った幸せそうなパークのアルバムジャケットも素敵。バイナルで聴きたい一枚だ。
“Alewife” by Clairo from “Immunity”
ロサンゼルスは、いつも何かを作り出している。子供たちはよくわからない遊びを作ってそれで遊んだり、近所のおじさんは庭にジェットコースターを作ってみたり、いつもの地下鉄の駅では、何やらカラフルなネオンライトと大きなカメラで映画を撮っていたかと思えば、iPhoneを片手にダウンタウンで兄ちゃん達が映画らしきものを撮っている。
とにかくいつもどこかで、誰かが何かを創っている。だからアトランタのベッドルームで創られたClairo(クレイロ)の音楽はここカリフォルニアでも自然と馴染む。DIY感こそ残しつつもその辺のベッドルームポップとは違う壮大さだったり、高いサウンドクオリティを聴くと彼女がなぜ今Charli XCXやMura Masaなどから客演に引っ張りだこなのだかも納得。
アメリカではインディーポップ好きには有名な彼女だが、ビリーアイリッシュのようにここからもっと大きくなる存在であることは間違いないので、日本でもブレイクする前の今から聴いておくと、彼女の成長を一緒に見ていける感じがして楽しい。
13歳から母が好きだったという80年代の音楽から影響を受けて音楽を始めた彼女。なるほどこのドラマチックさとキャッチーさは80’sリスペクトだったのか。
「”Alewife”(エールワイフ)から30分のマサチューセッツで、ベッドの上に横たわる。どうしてこの人生になったか考えているの」という歌詞で幕を開けるこの曲は、曲中の”You”との関係を通して自分とも向き合っていく様子を、ピアノの音と和太鼓のように響くビートが壮大に彩っていく。
誰もが自分自身を結びつけることが出来る、細やかな鉛筆画のようなアルバム。このアルバムを聴きながら、たまにはゆっくり物思いにふけってもいいかも知れない。
”Backseat” by Ari Lennox from “PHO”
ロサンゼルスは車社会だ。電車やバスも一応通っているし、10分に1本は何かしらが来るから車なしでも生活できないことはない。だけど、やっぱり車があると公共交通機関が通らない素敵な場所に行けるのも確かな訳で。
大ヒットした映画「ララランド」の中でエマ・ストーンとライアン・ゴズリングがプラネタリウムの中を踊るシーンで使われた観光名所、グリフィス天文台も車じゃないと行きづらい場所の1つ。だからという訳じゃないがまだ自分も行けていない。
車の中で過ごす時間が長いこちらの人たちにとって、チルできる場所が車の中になるのも納得である。「私の車のバックシートに乗らない?」と語りかけるのは最近の来日公演の話題も記憶に新しい、ぐんぐん勢いを増してきているAri Lennox(アリ・レノックス)。
みんな大好きノースカロライナ出身のカリスマラッパー、J Cole(Jコール)のレコードレーベルDreavilleのアーティストである。Dreamvilleアーティストの客演や、今年のグラミーにも最優秀ラップアルバムとしてノミネートされた、コンピレーションアルバムにももちろん参加している。
のびのび、ねっとり歌う彼女の姿は90年代初頭のR&Bディーバ達を彷彿とさせるし、遊び心と茶目っけに溢れた表現は、聴いてるこちらも見えないグラスを高く上げて、舌を出しながら踊りたくさせる不思議な魅力が溢れている。
ジェームス・ゴーデンのカープールカラオケ(アメリカの人気番組「Late Late Show」での人気企画)みたいにこれをかけながら、友達をバックシートに乗せてチルすれば渋滞だって楽しめちゃうはず。
Swag(めっちゃかっこいい)
人はみんなどこかで自信を持っていて、どこかで少し不安。だからこそ自分自身でその自信をブーストさせていかないといけない訳で。特にここロサンゼルスは自分みたいに夢を追いかけて来た人がわんさかいる。
その中で闘っていくには、自信が大きな武器になる。それが芸術であれば尚更だろう。文字に起こすとすごくシンプルで「わかってるよ」とツッコミたくなるが、これが大切な場面では難しいのだからモヤッとする。そんなときはガッチリ、バキバキのヒップホップを聴いて、自分を鼓舞してみよう。アメリカのスラングで、「swag(スワッグ)」というものがある。
多様に使われる言葉だが、イメージとしては「かっこいい様子」といったところだろうか。例えば、”Man you got some swag!(お前はホントにイケてるなぁ!)”みたいな感じで使われたりする。この曲たちを聴いて、自分の中のswagな部分を目一杯引き出してみよう。
“No More Parties In L.A.” by Kanye West feat. Kendrick Lamar from “The Life of Pablo”
正直自分は、ナチュラルに社交的ではない。本当は気の合うリラックス出来る人たちとだけ喋っていたいし、あんまりワイワイするのも得意ではない。だからもちろんパーティーにあまり興味がないのだ。
あれはナチュラルに社交的な人たちが楽しむことの出来るレベルの高い「会合」だと思っている。だがなぜパーティーに行くことをやめないか。それは簡単で、音楽を爆音で聴いて楽しみたいからである。
だから先日語学学校の先生が、「私のパーティーは音楽がかかっていないの。」と言った時、彼女のパーティーは絶対に行かないと心に誓った。そもそも呼ばれることすらないと思うが…。そうして音楽を楽しんでいるうちに、気づけば周りにサークルができていて、もちろん自分は踊っている。
この曲はタイトルとは裏腹に、パーティーで流れるには相応しすぎる要素がたくさん詰め込まれている。ループするキャッチーなサンプルと、思わず口ずさんでしまいたくなるフック、そしてカニエとケンドリックがエナジーバチバチで歌っているんだからもう身体を動かさずにはいられない。
ケンドリックはカリフォルニアで治安が悪いことと、2パックやN.W.A.などのウエストコーストのヒップホップ発祥地の一つとして有名な地域、コンプトン出身。だからこの曲にケンドリックを持って来たカニエはやっぱり流石というか、なんとなく曲に説得力が生まれている。
ロサンゼルスにいるクレイジーでパーティー好きな女の子達について皮肉たっぷりに勢いよく歌いまくる二人を聴くと、「もうパーティーは御免だな。」とか思いつつもまたお気に入りのVansをカニエよろしく履いて外に繰り出していくのである。
“FUN!” by Vince Staples from “FM!”
アメリカのラジオはジュークボックスで、日本のラジオはポッドキャストだ。そのぐらいの違いが両者にはある。日本のラジオは情報を伝えてナンボと言った感じで、その合間に音楽をかけていくようなスタイルが多いように感じる。そんな日本のラジオはすごく面白いし、日本にいる時はテレビよりラジオの方が聴いているぐらいだ。
だけどアメリカのラジオはその逆で、立て続けに曲を流していく中の間に、休憩のようにトークゾーンやリスナーへの電話のコーナーがある。だから曲が流れている時間は結構長い。アメリカで友達の車に乗ると、大体はラジオがかかっていて、その時の流行りの曲や懐かしのヒット曲を口ずさみながら目的地に向かっていく。
そして音楽のジャンルごとにラジオ局が別れていて、カントリー、ヒップホップ、ポップといったようにそのジャンルの曲をラジオ局がかけるのだ。そして、このアルバムはタイトルから分かる通り、ラジオをイメージして作られている。3人のラジオDJの語りから始まり、タイ・ダラー・サインの声と一緒に勢いを増していく。
途中タイガの「新曲」をお披露目したり、ケラーニのライブチケットを抽選で募集したと思ったらアルバムの最後にはケラーニが勢いよく滑り込みで登場したりと、なんとも凝った楽しいアルバムである。
この曲でも歌詞の中で2パックのことやロサンゼルスのことに触れていることで、もう自分はロサンゼルスにいると信じて疑えなくなるから、それはもう音楽でワープしているのと同じである。
コンプトン出身のラッパーは天才しかいないのか。Vince持ち前のバウンシーなビートと力が抜けながらも勢いのあるラップは、聴いているこちらも力がみなぎってくる。
次週に続く…
来週もロサンゼルスにまつわる曲をプレイリスト形式で紹介したいと思う。
こうして曲を選んでみると、意図せずに選んだ曲でさえも歌詞がロサンゼルスについて歌っていたりするからなんとも不思議である。
来週も2つの違ったシチュエーションでプレイリストを紹介するのでお楽しみに!